自民党と旧統一教会(以下、「統一教会」と記します)の関係について、あらためて整理したいと思います。結論から書きますと、統一教会は自民党に対し、それなりの影響力を持っています。「大きなものではないが、無視できない」といったところです。
「統一教会の集票力は、全国でおよそ8万票程度。せいぜい10万票ぐらいにすぎない。影響力など皆無に近い」「創価学会は600~700万票もある」――こんな意見も見かけます。しかし、この手の言説は、政治にあまり関心の無い人たちが、実態を知らずに逆張りしているだけだと思います。
そもそも日本には、数えきれないほどの各種団体が存在します。名鑑に載っているだけでも約6万。その中で、10万近い票を動かせる団体はごくわずか。三桁に遠く及びません。つまり、「8万」という票は、創価学会に比べれば少ないというだけで、相対的にも絶対的にも多い数字なのです。8万票を、「少ない」とのニュアンスで使うこと自体、政治や選挙をよくわかっていない証左です。
では実際、統一教会は、どのような形で自民党に影響を及ぼしているのか。「拉致問題解決のため、統一教会の持つ北朝鮮コネクションを使おうとした」「冷戦時代、反共を旗印に結び付いた」といった大きな話もありますが、筆者が知る範囲でいえば、次の三つです。
①選挙における票
②選挙におけるマンパワー
③地方議員に対する影響力
以下、順を追って説明します。
まず①から。統一教会の持つ票を、巷間いわれている通り、8万票と設定してみます。そのうえで、参議院選挙の比例票の出方を見てみましょう。参院比例は、団体票の出方がわかるからです。
前回(令和4年)の参院選において、比例で8万票以上獲得した候補は、全政党の中で46人です。前々回(令和元年)は48人。しかし、だからといって、「8万票を持つ団体の数は46~48」とはなりません。
というのも、この中には創価学会の支援を受ける公明党の候補が、それぞれ6名ずついるからです。1つの団体で6名当選させていますから、「46~48」という数字は、「41~43」まで減るわけです。
また、ガーシー氏ら、一定規模の組織票がついていないと思われる著名人候補も、何名かずつ存在します。
さらに、8万票以上をとった候補の中には、複数の団体がついた候補が何人もいるはずです。例えば、「Aという候補者を、B団体と、C団体が応援した」というふうに。
それらを差し引いて考えると、単独で8万票を出せる団体は、おそらく20~30団体程度、どんなに多く見積もっても、30ちょっとではないでしょうか。
参院比例は、候補者名でなく政党名を書くこともできます。8万票以上を持つ団体が、候補者名を書かず、政党名を中心に投票する、という可能性もありえます。だが実際には、そうしたケースはほぼ無く、捨象してよいと思います。
で、その20~30団体のうち約半数は、労働組合など、基本的には自民党以外にいく票です(今後はどうなるかわかりませんが)。そうなると、自民党を支持してくれそうな団体で、8万票を持つ団体は、たかだか20弱。名鑑掲載分だけで、約6万も存在する各種団体の中で、多くても20あるかないかということです。
6万団体のうちの20。1万分の3。0.03%。……統一教会の持つ8万票が、「少ない」などとは到底いえないことが、よくわかると思います。
「落選者の票に、8万票を足したらどうなるか」――こう仮定してみると、より理解が深まるでしょう。
自民党の参院比例における当選ラインは、前回は12万票弱、前々回は13万票強。ということは、だいたい5万票以上で落選した候補――前回、前々回、いずれも10人ずついます――は、統一教会の8万票がついていれば、当選できたかもしれないのです。
参院比例候補にとって、「8万票」というのは、当選ライン(12~13万票)の3分の2に及ぶ数字です。基礎票にも、キャスティングボートにもなる数字です。「少ない」なんて言えるわけがありません。
「8万票が、僅少とはいえないとしても、当選させられるのはたった1人じゃないか」との疑問を抱く向きもあるでしょう。しかし、「1人の議員」の価値は、実はかなり大きいのです。1人の議員が党をゆさぶり、内閣をゆさぶり、時には勝敗を決する……政治史をざっと見渡せば、そういう例はよくあります。鳩山由紀夫内閣が、福島瑞穂に振り回された例など、記憶に新しいと思います。
「1議員」が重要なら、それを生み出す団体もまた重要です。統一教会は、単独で国会議員を出す力はありません。けれど、基礎票、またはキャスティングボートになるフダを持っているわけです。だから、「重要な団体」とまではいかずとも、「無視できない団体」ではあるということです。
「町にとけ込んでいる某新宗連系教団より、勝共(統一教会)の方が票は出る」「評判は悪いけど、勝共票はまとまってて固い」――筆者が議員秘書の頃も、周囲でこんな会話が飛び交っていたものです。
「統一教会が出す票はたかが8万票程度で、創価学会の600~700万票に比べ桁違いに少ない。だから影響力など無い」などと言われたら、「では、創価学会以外の団体と比べたらどうなんだ? 8万票以上出す団体はどれだけある?」と、逆に質問してみるとよいでしょう。
衆議院選挙の場合も考えてみます。統一教会の8万票を、衆院小選挙区の定数289で割ると、一選挙区あたり300票弱です。ただし、これはあくまで平均値で、実際は都市と地方でかなり票差があるはずです。地方では、統一教会票が100票に満たない選挙区もある一方、都内では1000票超、あるいはそれ以上出す選挙区もあるでしょう。
平均300票弱。「たいしたことない」と思われるかもしれません。けれど、地元で「あの団体は300票持っている」との情報が流れたら、議員や秘書はどうするか。満面の笑みを浮かべつつ、その団体へお百度を踏むに決まっています。
地元選挙区の視点では、「300」という票は多いのです。実際、新年会等の地元の会合やイベントで、300人も集まることは滅多にありません。市議・区議レベルの報告会でも、300人が参加することなど稀です。いや、県議・都議レベルの報告会でも、そんなに来ないことは珍しくない。300ものフダを「少ない」と見る政界人なぞ、ド新人や三下を除けば、いるわけがありません。
しかも選挙とは、1票1票の積み重ね。「何票とれば当選」という世界でもありません。例えば10万票を目標にして、その通り得票しても、他の候補が1票でも上回れば、落選してしまうのです。
かつて「税調のドン」と畏怖された山中貞則は、消費税導入直後の平成2年衆院選において、28票差で落選しました。また、「大乱世の梶山」と呼ばれた梶山静六も、‶ロッキード選挙〟といわれた昭和51年衆院選において、654票差で苦杯をなめています。数十票、数百票の違いが、結果を左右したわけです。
まして現在の衆院選は、比例復活の制度があります。惜敗率を上げるには、それこそ1票でも多くとらなければなりません。300票でも30票でも、おろそかにできるものではないのです。
以上のように、統一教会の「8万票」は、無視できる数ではありません。だからこそ、陰でこそこそ付き合っている政治家が、今もいるのです。学者の先生が、学問的手法を駆使して分析すれば、「8万票」の価値が、より詳らかになると思います。
むろん、過大評価は禁物です。何しろ統一教会は、最悪といっていいほどイメージが悪い。安倍銃撃事件の以前から、他の票が離れかねないほどイメージが悪い。筆者の秘書時代も、統一教会に出入りしている議員や秘書は、そのことをあまり大っぴらにしないのが常でした。
固い票を持つけれど、その他の票が減るリスクも持つ。いや、減るどころか、吹っ飛ぶリスクすらある。そういう団体は、影響力もまた限定されます。「裏で自民党を支配している」どころか、むしろ「統一教会は、8万票を持っているわりには影響力が小さい」といえるかもしれません。
でも、過小評価もまた禁物。集票の実態を多少なりとも知れば、「たかが8万票の弱小教団だから影響力は無い」などといえるはずがないのです。
少し長くなったので、②の「選挙におけるマンパワー」は、次回に譲ります。

